大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(行コ)35号 判決

控訴人

東京都

右代表者

水道事業管理者水道局長

扇田彦一

右訴訟代理人弁護士

三谷清

外四名

被控訴人

飯田昇二

外三名

右四名代理人

浜口武人

外二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人は更に被控訴人飯田に対し金百八十七万六千七百八十六円及び昭和四十二年十月一日以降昭和四十三年一月末日まで毎月十五日限り金五万八千八百三十一円を、控訴人関町に対し金百五十万二千三百四十五円及び昭和四十二年十月一日以降昭和四十三年一月末日まで毎月十五日限り金四万八千三百八十円を、控訴人芳沢に対し金百八十四万四千九百五十六円及び昭和四十二年十月一日以降昭和四十三年一月末日まで毎月十五日限り金五万八千九百十一円を、控訴人市川に対し金百七十四万七千二百二十三円及び昭和四十二年十月末日以降昭和四十三年一月末日まで毎月十五日限り金五万四千八百二十二円をそれぞれ支払え。

控訴費用は控訴人の負担とする。

主文第二項は仮に執行することができる。

事実〈省略〉

理由

原判決の事実及び理由中に記載する当事者間に争いない事実の記載はこゝに引用する。(但し北一支所長と北一支部とが団体交渉をなしたとの点、控訴人主張の協約が基準を定めた趣旨のものであるとの点は除く)

被控訴人等の控訴人に対する勤務関係については私法の適用を受け、本件解雇が行政処分とは認められないことについての当裁判所の判断は原判決の理由中に解示するところ(原判決の第五ノ一)と同一であるからその記載を引用する。(但し第五の一の(二)の冒頭に企業法は原則として地公労法の定めるところとあるのを地公法の適用が先づ最初で次いで企業法に特則を定め、更にその労働関係について地公労法に特則を定めたものと訂正する。)

控訴人がなした時間外勤務命令に対して被控訴人等北一支部の職員が右命令に服従する義務がなかつたこと、従つて被控訴人等の行為は地公労法第十一条第一項に該当しないことについての当裁判所の判断は以下に記載するように新たな事実認定を加え、且つ後記法律判断を追加補足する外は原判決の理由中に説示するところ(原判決の第五の二)と同一であるからその記載を引用する。

控訴人は当審において三六協定が実質上は存在する旨の主張をなし、被控訴人等は右主張は原審における自白の取消であり異議ありと述べているが控訴人自身その主張する協約について労働基準法第三十六条に定められている労働基準監督所長に対する届出の手続をなしていないことは認めているところであり控訴人の当審での主張はその主張する協約が実質上は法第三十六条に規定する協定に該当するという趣旨に解されるので、自白の取消の有効、無効の判断は暫く措き以下のように判断する。

〈証拠〉を綜合すると

一東水労はおそくとも昭和三十三、四年頃から水道局に対し、時間外勤務等の件について十四時間十五分の手当の支給方の要求を掲げて交渉しており、昭和三十六年頃には監督官庁である労働省等の指導もあり労働基準法第三十六条にいう事業場は支所又は部局が相当であるとの考え方から各支部においても各支所に対し同様の交渉を続けており、昭和三十六年八月一日原判決末尾別紙記載の協約が局と東水労との間でなされたが北一支部においては昭和三十五年十二月に支部が結成され、その後間もない頃から支所長に時間外勤務等の手当について協約の締結方を申出ていたが主として支所側の都合によつて協約の締結に至らなかつたこと、東水労と水道局との間に前記協約成立後も締結当事者の問題もあり、具体的に内容を規定することが事柄の性質上からも又水道局の予算面上からも困難なところが存するせいもあつて各支所から労働基準法第三十六条に定める正規の協定の届出はなされないまゝに右協約の基準に従つてその都度の局又は支所と東水労又は各支部との交渉によつて時間外勤務及びその労働条件が定められる慣行が行われていたこと、前記協約の内容は三六協定の当事者資格時間外動務についての基準を定めたものにすぎず、その内容が直ちに前記第三十六条に要求している協定の内容となるべきものではなかつたし、それによつて直ちに現場である各支部を拘束する趣旨のものではなかつたので、北一支部では右協約成立後も独自に東水労の運動方針に従つて十四時間十五分の手当の支給方の要求を続けていたこと。

二北一支部では昭和三十七年四月十六日第二次制限給水作業についての時間外勤務等に対して支所長と交渉した結果支所長の権限で二十日までは支部の要求するとおりの十四時間十五分の手当の支給を認めるが二十一日以降は同日が土曜日に該当するところからその取扱についてはなお考慮する旨の支所長の回答を得ていた一方十八日から局と東水労との間で同一事項について団体交渉が持たれ局においても北一支所長がその権限で十四時間十五分の手当支給を承認したことを知りながらそのまま放置し、その取消又は二十一日以降の支給についての北一支部の要求を拒否するよう指示したことはなく、支所長も二十日まで支部の要求を承認した旨を報告したが二十一日以後の支給について具体的に指示を仰ぐことなく、二十一日になるまで同日以降の支給については支部の要求を容れられないことを支部に申出ることもしなかつた、そして二十一日に至つて支部から回答方を督促せられて始めて支部の要求に応ずることができず、局と東水労との団体交渉の結果を待つより外はない旨の回答をしたので被控訴人等支部の役員は支所長の食言であるとして強く抗議する態度に出で、二十日までについては支所長の承認を得たことでもあり、この際平素の要求の実現を貫徹しようと考えて被控訴人等が中心となり北一支所の職員の二十一日から二十六日までの時間外就労を阻止する行動に出たこと、

二十五日の午後になつて局と東水労との間で団体交渉が妥結して協約がなされたけれども二十一日には北一支部の就労拒否を知つていた東水労本部から右妥結の時までに北一支部に対して就労拒否の中止の指示をしたこともなく、右妥結の通知の連絡もおくれたので二十五、二十六日の両日は妥結を知つた被控訴人等北一支部の役員等が犠牲者を出すことを恐れ支所長に職務命令の撤回を求める交渉をしたりしていたため職員の就労を見るに至らなかつたことを認めることができ、右認定に反する〈証拠〉は採用しがたく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

以上認定事実から判断すると、北一支所と北一支部との間には三六協定が成立していないので、北一支所の職員は本件時間外就労の義務はないのに、北一支所長が控訴人主張のように公務のため臨時に必要があるときと認めて就労を命令したものであり、控訴人主張のように時間外勤務を必要とする事情が存在していたことは認められるとはいえ、北一支所の職員に対し法に定めた三六協定をしないで時間外勤務を命じ就労を強制することは許されないものと解するのが相当で、原判決の理由中に説示するとおり三六協定なしに時間外勤務をなす慣行が行われており就労の必要があつたとしても右命令に反する行為を目して地公労法第十一条第一項に該当するものと解することはできない。控訴人は北一支所の職員に対する時間外勤務に就労を命じた職務命令が違法のものであつても、その命令当時においては、その違法なことは、しかく明白ではなかつたから、職員はこれに従う義務あつたと云うけれども、三六協定がないのに、職務命令を以て時間外労働を命じ得ないものである以上、違法性の明白なると否とを問わず(控訴人は職務命令が行政行為であると考えてのことであるが)その命令に従う義務を法律上認めることはできない。

上叙事情の下に被控訴人等が控訴人主張のとおり就労阻止の行為をなしたとしても労働組合の適法な主張を貫徹するための組合員としての組合活動をしたにすぎないものと云うべきところ被控訴人等四名は北一支部結成当時からの役員であり、今回の就労拒否のために処分されたのは右四名のみであること(右事実は当審における被控訴人関町本人尋問の結果によつて認められる)を合せ考えると控訴人の本件解雇は被控訴人等の組合活動を原因とする不当労働行為に該当する無効のものというべきである。

以上判示のとおり被控訴人等の行為を地公労法第十一条第一項に該当するものとしてなした本件解雇は無効で、被控訴人等は依然として水道局の職員たる地位を有するものであり、被控訴人等の給与等の請求は原判決の第五の三の中で説示するとおり(右記載を引用する)正当であり、被控訴人等の右請求を認容した原判決は(誤算による一部棄却の点は除く)相当であるから本件控訴は理由がない。

次に被控訴人等の当審における新な請求について判断するに被控訴人等が水道局の職員たる身分を失つていないこと前認定のとおりであるところ、原審においては昭和四十年九月末日までの給与等を請求したにすぎないことは明らかであり、昭和四十年十月一日以降の被控訴人等の受くべき給与等の額が被控訴人等主張のとおりであることは当事者間に争いないところであるから控訴人が昭和三十九年十一月の被控訴人等の本訴提起以来被控訴人等の解雇を主張し、その職員たることを争つており被控訴人等の不就労が被控訴人等の責に帰すべき事由によることについて何等の主張、立証のない本件では被控訴人等は控訴人に対し新に主張どおりの給与等を請求しうる権利がありと解すべきで、被控訴人等の控訴人に対する当審の新な請求は正当である。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第一項により本件控訴を棄却し被控訴人等の当審における請求を認容し、当審における訴訟費用の負担について同法第九十五条第八十九条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。(毛利野富治郎 石田哲一 矢ケ崎武勝)

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